「オーケストラで働く人」と聞いて、どんな人を思い浮かべるでしょうか?
- 指揮者
- 演奏者
- 会場の案内をするスタッフ
それから……?
プロオケの裏方として働くオーケストラ事務局。
見えないところで大勢のスタッフが華やかなステージを支えています。
この記事を読めば、オーケストラの見え方がちょっと変わるかもしれません。
事務局の役割分担
アマチュアの楽団では演奏者自らが運営役も担います。
演奏会に向けて楽器の練習をする傍ら、自分たちで会場を手配したり、チラシを作ったりしているのです。
しかし、プロオケでは演奏者と運営役は分けられています。
演奏者は演奏の専門家であり、事務局スタッフは運営の専門家です。
この記事では、オーケストラ事務局の仕事を10種類ご紹介します。
理事長
経営の責任者。
オーケストラが会社だとしたら、社長にあたる人です。
理事長は、オーケストラの代表として全ての事柄に関与します。
テレビや雑誌のインタビューに答える他、自ら筆頭になって営業活動をするなど、世間に向けてオーケストラの存在をアピールするのも役割の一つです。
ステージマネージャー
ステージマネジャーは、略してステマネと呼ばれます。
ステマネは、コンサートの進行を司る舞台監督であり、ステージセッティングのプロです。
- ステージセッティング
- 指揮者・ソリストのサポート
- 演奏者の入退場を指示する
- 照明の調整・指示
- 楽器の搬入と搬出 etc…
これらはほんの一例で、他にも仕事は山ほどあります。
絶妙にちょうどいい位置に譜面台とイスを並べて、楽器に不具合があれば代わりの楽器を手配して、衣装が破れれば補修して、舞台袖でソリストを励まして……
とにかく、あらゆるトラブルに対処する役割を担っています。相手が何を望んでいるかを察して行動し、すべての出演者が最高の状態でステージに立てるように気配りをするのがステージマネージャーの役目です。
おすすめの書籍「マエストロ、時間です」
サントリーホールで初代ステージマネージャーを務めた宮崎隆男さんが著した、オーケストラの裏側を描くエピソード集。
良い音楽ホールとは何なのか・ステージセッティングへのこだわりなど、クラシック音楽ファンにはもちろん、音楽を支える仕事に興味がある方におすすめです。
インスペクター
インスペクターは指揮者と楽団員の間で、双方の要望を聞きながらメンバー編成やスケジュールの調整を行う仕事です。
オーケストラは、常に同じメンバーが参加するわけではありません。
作品によって必要な楽器の種類と人数が変わるので、それに応じて楽団員と相談しながら乗り番と降り番を決めて、出演スケジュールを作成します。
乗り番・降り番とは?
オーケストラに所属しているメンバーのうち、ステージで演奏する人は「乗り番」と呼ばれます。
逆に、所属はしているものの人数が足りているなどの理由で出演しない人を「降り番」と呼びます。
インスぺスターは編成に応じてエキストラや特殊楽器の奏者の手配もします。
そして、練習が効率よく進むように練習時間の割振りを考えるのもインスペクターの役目です。
例えば、ベートーヴェンの交響曲第9番でピッコロの出番は第4楽章だけです。
練習時間の割振りを決めておかないと、どうなるでしょうか。
時間が足りなくなったので、今日は4楽章やりません!
ピッコロ奏者は「第九の練習」と聞いたから準備していたのに、当日になって「やっぱりやりません」なんて言われたらガッカリです。
そういった事態が起きないように、すべての出演者が効率よく活動するためのスケジュールを組むのがインスペクターの仕事です。
ライブラリアン
ライブラリアンは楽譜のプロです。
演奏する曲目が決まったら指揮者と打ち合わせをして、出版社や校訂者の指定があれば、その楽譜を手配します。
指揮者にとって、演奏者以上に重要な人物と言っても過言ではないポジションで、海外のオーケストラではライブラリアンになるためのオーディションもあるほど。
どのオーケストラも、楽譜や解説書などを保管する図書館のようなものを持っており、そこに保管される楽譜・書籍の保管と管理を任されている、司書のような仕事です。
プログラムが決まり、楽譜の用意ができたら演奏者に配る役割も担います。
しかし、ただ配るだけではありません。
- 指揮者用スコアとパート譜の小節番号一致するか
- リハーサル番号の調整
- 指揮者用スコアとパート譜で食い違う箇所が無いか
- スコアに乱丁や落丁は無いか
- 線や音符が掠れていないか(見えにくければ書き足す)
- ボウイングの指示を書きこむ
- 指揮者からの指示を書きこむ
- 破れや汚れがあれば修繕する
- 前に使った人のメモを消す etc…
これらを済ませた楽譜を演奏者に配ります(大変なお仕事です!)
公演営業
オーケストラの公演をサポートしてくれるスポンサーを募り、運営資金を調達する仕事です。
拠点にしているホールでの定期公演だけではなく、地方公演やイベント出演などを企画してスポンサーを獲得し、資金を集めます。
どんな企画であればチケット収入が見込めるのか、その企画力で腕が試されます。
演奏企画
演奏会の内容を考える仕事です。
コンサートを大きく分けると、オーケストラが主催する公演と、企業などの依頼を受けて演奏する公演があります。
その全ての公演スケジュールとプログラムを企画考案するのが「演奏企画」のスタッフです。
オーケストラ主催の公演であれば、何の曲を誰の指揮で演奏するのか、2~3年先まで見越して企画することもあります。
また、定番の楽曲に関する知識に加えて、世間の流行や話題の演奏者にも目を光らせています。
広報・宣伝
公演のチラシ製作や、公演情報の宣伝を行う仕事です。
チラシを配布する他、新聞・ラジオ・SNSと言った様々なツールを駆使して情報を発信します。
SNSでは、オーケストラの「中の人」のユニークなつぶやきが話題になることもありますよね。
そのように公演の告知だけではなく、運営の裏話や楽団員の様子などを伝えてファンを集めることも仕事のひとつです。
編集
会場で配布されるブローシャー(パンフレット)を製作する人です。
プロオケの定期公演のブローシャーには、指揮者をはじめ出演者のプロフィールや曲目解説が詳しく書かれていて読み応えがあります。
これを目当てで会場に足を運ぶファンも少なくありません。
ブローシャーには日程の近い公演のチラシも記載されるので、広報・宣伝との協力も必要です。
チケットセールス
チケットの販売をする仕事です。
しかし、ただ言われた枚数を販売するだけではありません。
チケットセールス・スタッフの多くは、実際に客席で音を聞いて研究しており、座席の位置による聞こえ方と見え方を知っていて、その知識をもって座席の案内をしています。
ソリストが見える場所に座りたい!
全体をバランスよく聴きたい
など、観客のリクエストに沿うような座席を案内しています。
会場係
公演当日、会場内の誘導やグッズ販売をする仕事です。
当日の準備を終え、手の空いた事務局スタッフが会場係として働いています。
観客の誘導に関しては事務局スタッフだけでは手が足りないため、ドアマンをお手伝いするアルバイトの方もいます。
おすすめの書籍「オーケストラの世界へ」
- コンサートマスターはなぜヴァイオリンなのか
- 楽団員の上下関係
- 演奏中に楽器が壊れたらどうするのか?
- 首席は給料が高いの?
など、オーケストラにまつわる雑学が満載の1冊です。
1テーマにつき1~2ページで短くまとめられているのでサクサク読めます。
長年音楽に携わり、知っているつもりでも改めて読んでみると興味深い一面に気付かされて満足感のある本でした。